睡眠薬強盗 in カオサンロード:被害者は語る

宿で知り合った7人でカオサンロードを歩いていた。

時刻は22時30分頃。途中、ゴーゴーバーへ行こうという話になった。僕はそういう気分ではなかったので行かないことを告げ、結局、5人がタクシーで「ソイ・カウボーイ」へと向かった。残った2人、僕ともうひとりはビール片手に話をしながら、カオサンロードをぶらぶら歩く。

しばらく歩いていると、斜め左後方より誰かから声を掛けられた気がしたので、振り返ってみると、そこには女の子2人組。だいたい、いつもそうだが、突然声を掛けられた時の第一声というのはほとんど記憶に残らない。今回もそうだった。彼女らはタイ人のようだ。僕らのことをタイ人だと思ったらしい。やけに笑顔だ。適当に立ち話をする。日本人の男2人、タイ人の女2人。

僕らは日本語で「僕らのような外国人にタイ人の女の子が声を掛けてくるなんて、おもしろいじゃないか」と話し合い、立ち話もなんだから、そこらへんの店で軽く飲もうぜという流れになった。ちなみにルックスはというと、まったく可愛くない。片方などは、水木しげるの漫画に出てきてもおかしくないほどだった。

しかし、このあと特に予定もないし、今もちょうどぶらぶらしていたところだったので、そういうタイミングも手伝い、軽く行くことにした。4人でどの店に入ろうかとカオサンロードを歩いていると、女の子らが「カラオケに行かない?」と提案してきた。

ほほう、カラオケか。特に断る理由もない。「タイのカラオケってどんなんだろう?」「これも旅の思い出じゃねえ?」ってことで、カラオケに行くことになった。タクシーで行くらしい。僕らの手にはまだビール瓶がある。

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■夜のカオサンロード

カオサンロードの喧騒を離れ、タクシーは進む。意外に遠い。景色が変わり、暗くなってきた。「あれ?これってもしかして、人気のない所に連れて行かれて、タクシー降りたら怖いお兄さん数名が現れて、お金や所持品など全部奪われるパターン?」「もしそうだったら、このビール瓶投げ付けて、速攻で逃げようぜ」と女の子のすぐ横で僕らは話していた。そして方程式通り、タクシーは大通りから細い路地へと入っていく。

これがもし、メイクばっちりの、スタイルすらっとの美人系だったら、最初から警戒する。だけど「昨日、田舎から出て来ました」みたいな彼女たちである。そのあまりにも垢抜けていない具合が逆に、悪いことをするタイプではないと思わせるのに十分であった。

タクシー代は70バーツ(約210円)ほどだった。

お金を払おうとすると、どうやら彼女らが払う模様。笑いながら「タクシー代は払うから、カラオケ代はお願いね」みたいなことを言っている。本気か冗談かわからないが、まぁ悪くはない。そして恐る恐るタクシーから降りる。目の前にはカラオケ屋。怖いお兄さんが登場する気配はない。

と、するとこれは、カラオケ屋の店員がグルなパターンかと改めて警戒し直し、受付の店員の笑顔の純度を計るも問題なさそうである。部屋に入る。日本のそれとほとんど一緒。日本の地方都市のチェーンではないカラオケ屋の室内といった感じだ。ただひとつ違う点が、部屋の中にトイレが付いている。

これは僕の予想だが、もともとはホテルだったものを改装してカラオケ屋にしたのではないか。そうであれば、部屋の中にトイレがあることも説明が付く。その建物の入り口や廊下の感じを見ても、ホテルだったことは間違いないだろう。隣の部屋をのぞくと、地元の若者と思われる男女が普通にカラオケを楽しんでいる。どうやら普通のカラオケ屋のようだ。

僕らはどうも心配し過ぎていたらしい。普通にカラオケを楽しもうではないか。

タイ語の歌はわからない上に発音も難しいので、主に英語の往年の名曲を歌った。「Last Christmas/Wham!」や「Yesterday/The Beatles」などだ。歌ってみるが、なんと彼女ら、世界的に有名なこれらの曲を知らないという。ジェネレーションギャップで「知ってる・知らない」というレベルの曲ではないはずだ。それに僕らは年齢も数年しか違わない。ところ変われば常識も変わるのだろう。

そうこうしているうちに、ビールと料理が運ばれてきた。僕らはソファーに座っている。店員が僕らを背にし、ビールをビンからグラスへと人数分注ぐ。僕はさりげなく立ち上がり、店員がこっそりなにか粉末や錠剤のようなものなどを入れていないか見ていた。が、特におかしな様子は見当たらなかった。それと同時に、店員の動きをチェックする僕を、彼女らがどう見ているか、という点もチェックしたが、彼女らは普通に歌を歌っていた。

この時点で僕は、これは完全に「白」であると判断した。相方と2人で「疑ったりして悪いことしたな」と話し合った。そのあとは、普通にカラオケを4人で楽しんだのだった。

今思えば、カラオケの最中は異常なほどトイレが近かったように思う。少なくとも5回は行っただろう。お酒を飲んでいるというのもあると思うが、それにしてもトイレが近かった。睡眠薬を摂取すると、トイレが近くなるのであろうか。わからない。

—。

気付いたら朝だった。ここはどこだ?どうやら同じ建物のどこかの部屋のようだ。立ち上がり、歩いてみるも、うまく歩けない。おかしいな。すぐに転んでしまう。そして、うまく話せない。ろれつが回らない。記憶がないし、あったとしても極めて断片的。

調子が悪い。1年に1回、吐くことがあるか・ないかというほど、あまり吐くことがない僕が、目覚めてからすでに、3回も吐いている。飲み過ぎたのか。

しばらくすると、どこからともなく相方が現われる。相方も普通ではない様子。お互いろれつが回らないので会話にならない。持っていたデジカメがない。サイフには、なぜか2サタン(約0,06円)しか入っていない。どうしてだろう。カラオケの受付にデジカメを見なかったかと聞くが、あるわけがない。彼女らが持って行ってしまっているのだから。

しかしこの時点で、僕は睡眠薬強盗にあったという考えにはまったく至っていない。昨晩使っていたカラオケの部屋にも行き、デジカメが落ちていないか、くまなく探すがない。当たり前だ。相方のサイフも1ドルだけ残してあって、あとは盗られたようである。僕らはまんまとやられたのだ。完全に「黒」だったのである。

整理してみよう。

まず、あちらから声を掛けてきた時点で怪しい。そして「カラオケへ行く」という大義名分で見えにくくなっていたが、知らないところへ、それも夜遅く、出会ったばかりの人たちと、タクシーで行くというのは完全に間違っていた。ここが今回の最大の敗因だったと思う。タクシー代を彼女らが払ったのも、あとで得られる大きな果実を見越してのものだろう。それに比べれば70バーツなど微々たるものだ。

不幸中の幸いであるが、盗られた金額は日本円で数千円ほどである。たいした金額ではない。デジカメを盗られた方が痛いが、こちらも不幸中の幸い、3日前にちょうど画像をバックアップしておいたので、失った写真は2日分だけだ。これがもし1ヵ月分とかなると、さすがにキツい。

僕はわりと短期間のうち、カオサンロードで睡眠薬強盗にあったという人を3人見聞きした。どうやら、カオサンでの睡眠薬強盗はとてもポピュラーなようだ。旅にアクシデントは付き物であるが、今回は良い勉強になった。今まで、韓国・中国・ベトナム・ラオス・タイと周ってきて、特に治安が悪いということもなかったので正直、完全に緩んでいた。

今回の事件は、これからまだまだ続く旅のことを考えて、今後の行動を戒める意味でも、僕に必要なものだったのかも知れない。

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コメント

  1. めぐ より:

    あらら、気をつけないと。
    応援してますよ。

  2. つぼ より:

    僕も2年前にカオサンで引っ掛けられたなぁ。
    社会勉強費として笑える思い出になりました。